日系企業による米国企業の大型買収が再び世界の注目を集めています。2024年末に発表された「新日鉄（日本製鉄）によるUSスチールの買収計画」に対し、2025年5月、ドナルド・トランプ米大統領が“買収承認の意向”を示したと報道され、波紋が広がっています。

本記事では、この買収劇の全容とトランプ大統領の発言の意味、そして日本とアメリカ双方に与える経済的・政治的影響について詳しく解説します。

日鉄のUSスチール買収とは？

■ 史上稀に見る「日米鉄鋼業界の再編」

2024年12月、日本製鉄株式会社（日鉄）は米国の老舗鉄鋼メーカー「USスチール」社を約145億ドル（約2兆1,000億円）で買収する計画を発表しました。USスチールは、かつて全米1位の規模を誇った歴史的企業。今回の買収により、日鉄は生産能力で世界第3位の座を確固たるものとする見込みです。

■ なぜ日鉄はUSスチールを買収するのか？

**主な目的は「海外市場でのプレゼンス強化」と「高付加価値鋼材の供給網構築」**です。近年、鉄鋼業界は中国やインドの急成長により競争が激化。日本市場が縮小傾向にあるなか、日鉄はアメリカ市場での事業基盤を拡充し、世界での競争力を高めようとしています。

トランプ大統領の「承認発言」の真意

2025年5月、ペンシルベニア州での遊説中、トランプ大統領が「私は日鉄によるUSスチールの買収を承認する」と発言しました。通常、大統領がこうした民間取引に言及することは異例ですが、トランプ氏らしい「経済ナショナリズム」と「アメリカ第一主義」にもとづいた計算が透けて見えます。

■ なぜトランプは承認したのか？

以下のような理由が考えられます。

• 雇用維持の確約：日鉄は米国内工場の維持・雇用の確保を約束しており、トランプ氏の支持基盤であるラストベルト（工業地帯）に好印象を与える材料となった。
• 対中競争を意識：中国企業による買収でなかったことが「安全保障上の脅威ではない」と評価された可能性。
• 選挙戦への布石：鉄鋼労働者へのアピール材料として利用した側面も強い。

バイデン政権時代との違い

バイデン政権では、「外国企業による米国の重要インフラ買収」に慎重姿勢をとっており、CFIUS（対米外国投資委員会）がこの買収を審査対象とする意向を示していました。バイデン政権下では、国家安全保障の観点から“買収拒否”の可能性もささやかれていたのです。

それに対し、トランプ大統領の発言は“明確な容認姿勢”を示すものであり、これが今後の買収承認プロセスを大きく左右することになるでしょう。

労働組合・議会・世論の反応は？

■ 鉄鋼労働者たちの声

米国鉄鋼労働組合（USW）は、当初この買収に対して懸念を示していましたが、日鉄が「雇用の維持と投資拡大」を明言したことを受け、態度をやや軟化させています。

「我々の雇用と地域経済が守られるなら歓迎すべき」という声も増加中です。

■ 上院・下院での動き

議会では、共和党は買収を支持する声が多く、民主党の一部議員から「外資による影響力拡大」に懸念を示す意見も出ています。特に製造業関連の議員は慎重な姿勢を見せています。

経済的な影響は？

■ 米国：鉄鋼産業の競争力強化と再投資の可能性

USスチールは老朽化した設備が課題でしたが、日鉄による資本投下により、新しい製鋼技術やグリーン技術（CO₂削減など）の導入が期待されるようになりました。

■ 日本：国内鉄鋼業の縮小に歯止め

一方、日本側にとっては、国内需要減退による収益構造の改善と、外貨収入源の多角化につながります。

また、日鉄の世界的ブランド強化によって、今後の海外案件やパートナーシップ構築にも良い影響が出ると見られています。

安全保障の観点からの評価

アメリカ政府は、重要インフラや軍需関連の製造について慎重な姿勢を崩していません。CFIUSの最終判断によっては、追加条件が付される可能性もありますが、現時点ではトランプ大統領の発言により“政治的承認”は大きな後押しとなっています。

今後のシナリオと注目ポイント

今後は、以下の点に注目が集まります。

1. CFIUSによる正式承認の有無
2. 労働組合との合意形成と契約条件の最終化
3. 大統領選挙における争点化とトランプ氏の再選動向
4. 鉄鋼市況への波及と株式市場の動向

【まとめ】日鉄のUSスチール買収は「日米経済の分岐点」

今回の買収劇は、単なる企業間取引にとどまらず、日米の産業構造・安全保障・外交関係にまで影響を与える重大な案件です。

特にトランプ大統領の「承認発言」により、政治的な意味合いが一気に強まりました。日鉄がこのビジネスチャンスをどう活かすのか、アメリカが外資との付き合い方をどう再定義するのか——。

「経済のグローバル化 vs 国家主義のせめぎあい」の象徴的な事例として、今後の展開に引き続き注目が必要です。

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